オーストアリアの競馬の仕組み 2025 年7 月更新
競馬好きにはたまらない国オーストラリア! 競馬は、国民に広く親しまれているスポーツで、豊富なレース数と華やかな競馬場、賞金水準が高く、転売益や種牡馬価値など、複数の収益源や馬主へのリターンが大きくなる可能性も高いと、近年「投資対象」としても世界中から注目を集めています。オーストラリアの競馬で新たなチャンスを探求してみてください。
1.オーストラリア競馬の概要
オーストラリアは、世界でも注目される競馬大国です。芝のレースで世界一賞金が高いレースが開催される競馬場から、年に一度だけ開催があるピクニック競馬場を入れると、国内に400以上の競馬場があり、年間を通じて競馬が開催されています。また、国中にTABと呼ばれる場外馬券販売所があり、容易に馬券を購入することが出来ます。カントリー(田舎)での開催になるとダートでの開催も増えますが、殆どが芝でのレースとなります。
*賞金100万豪ドル以上のレースは105レース(米国69レース、欧州29レース)
*賞金は過去5年で36%増額、(英国24%、米国12%の増額)
*43頭に1頭が賞金50万豪ドル以上を獲得
日本では、主催者の異なる2種類の開催団体がありますが、オーストラリアの競馬は州ごとに統括されています。 シドニーがある州、ニューサウスウェールズ州ではレーシングニューサウスウェールズRacing NSW、メルボルンがあるヴィクトリア州ではレーシングヴィクトリアRacing Victoria、ブリスベンやゴールドコーストがある州はレーシングクイーンズランドRacing Queenslandといったように、州によって統括団体が異なります。そのため、賞金の配分設定、州生産馬ボーナスなどにも若干の違いがあります。
2.主な高額賞金レース、賞金配分
オーストラリア競馬といえば、レース当日が開催州ヴィクトリア州の「祝日」に指定されている、G1メルボルンカップ(3200m)が圧倒的に有名です。11月の第2火曜日に開催されるメルボルンカップを含み、ヴィクトリア州では10月、11月に高額レースが多く開催されます。逆の季節となる3月には、2歳馬の最高峰となるG1ゴールデンスリッパーS(1200m)がシドニーで開催され、その総賞金は500万豪ドル(約5 億円)と、2歳戦としては世界一となる賞金を誇り、オーストラリアのダービーを上回る高額賞金となっています。その他にも、1着賞金が100万ドル以上の高額レースは年間36レースにも上ります。
オーストラリアでは、このゴールデンスリッパーが、ダービーよりも、将来の種牡馬としての価値を高めるレースとされています。
高額賞金レース
ジ・エベレスト(10月シドニー開催) 2000万豪ドル(約20億円)
ゴールデンイーグル (11月シドニー開催) 1000万豪ドル(約10億円)
メルボルンカップ (11月メルボルン開催) 1000万豪ドル(約10億円)
コックスプレート(10月メルボルン開催)600万豪ドル(約6億円)
クイーンエリザベスステークス(4月シドニー開催)500万豪ドル(約5億円)
ゴールデンスリッパー (3月シドニー開催) 500万豪ドル(約5億円)
高額賞金レースが多い州は、ニューサウスウェールズ州と、ヴィクトリア州で、G1開催の多くは春と秋に開催されます。
レース数も多ければ、重賞レースも多く、高額賞金レースも多いオーストラリア。それでも競馬のレベルは年々向上する一方です。2024年の世界トップ100レースのうち30レースがオーストラリアで開催されています。世界的にみると、イギリスでの開催は20レース、そして日本の13レースが 世界のトップ100に入っています。重賞レースが多くても、レーティングの高く難しいレースも多いということです。
競馬は毎日のように開催されるため、レース数が多く、未勝利戦も年齢制限がありません。牝馬の活躍の場も多いため、レース選択の幅が広く、それぞれの馬に合ったレースに出走させることが可能になります。シドニーの競馬場では、土曜開催の1着賞金は最低でも8万2500豪ドル(約825万円)になります。
賞金の配当
通常、頭数が少ない場合を除き、10着までの賞金が用意されていて、そのうち約8割が馬主へ、10%が調教師へ、5%が騎手へ、そして州によっては1.5%が厩務員へ支払われています。州によっては、賞金総額より1-2%が引退馬支援ファンドや、引退騎手ファンドへ支払われています。調教師によっては重賞優勝の場合、賞金の5%を厩舎当てに請求するところもあります。祝賀会の代わりですね。
3.レースの種類とクラス
レースのクラス分け
レースのクラスは上位からGⅠ、GⅡ、GⅢ、リステッドとあり、馬の年齢、収得賞金、前走のレーティングによって、希望のレースに出走が可能かどうかが決められます。
各馬には未勝利戦後にレーティングが付きます。次走はレーディング、もしくは1-6まであるクラス制(クラス1は2勝未満の馬が出走可能)で決めることになります。牝馬であれば牝馬限定のレースを選んだり、ハンデ戦や馬齢重量戦など、その馬に合ったレースが選ばれます。レースによっては、指定レースを優勝しているということで、除外の対象外となる場合もあります。あし毛だけのレースもあります。
オーストラリアには現在G1レースは74レース、G2レースは94、G3レースは167と、多くの重賞レースが設定されています。重賞レースは賞金面だけでなく、引退後の馬の価値にも大いに影響を及ぼします。重賞レースが多いということは、所有馬がブラックタイプ馬になれる可能性が高くなり、価値が上昇します。牝馬の場合、引退後に繁殖入りした際、ブラックタイプ馬か否かで、産駒を高水準のセリに上場できるかどうかが左右されることもあります。
トライアル
模擬レースのように、ゲートからスタートし700-1000m程を走らせるものです。実際にはスタットブックの情報にトライアル出走として、着順も記載されますが、賞金は出ません。一般的に調教の一環として利用され、デビュー戦、復帰戦までにトライアルで1,2回走らせてからレース出走となります。またトライアルで良い走りをした馬が、売買の対象にあることも珍しくはありません。州によってはジャンプアウトと呼ばれる同じような調教が行われています。
距離
1400m以下のレースが最も多く、芝での競走が殆どです。オーストラリアのトリプルクラウンは、ランドウィックギニー(1600m)、ローズヒルギニー(2000m)そしてオーストラリアンダービ(2400m)となります。
4.競馬場と調教
オーストラリアには大きく分けて3段階の競馬場があります。馬の調教は、基本的に競馬場を利用する調教師がほとんどです。メトロポリタンは市内にあるため、馬場使用料などの経費が高くなるため、ここをベースとしている調教師の調教料金は一日170-190豪ドルほどとなります。プロヴィンシャルやカントリーをベースにした調教師は、調教費が割安になります。
*賞金が高いけど経費も高いメトロポリタン競馬場
*市内近郊プロヴィンシャル競馬場
*草の根競馬カントリー競馬場
メトロポリタン競馬場
市内にある競馬場で、メルボルンであればフレミングトン、コーフィールド、ムーニーバレーなど、シドニーであれば、ランドウィック、ローズヒル、ワーウィックファームなどがそれにあたります。賞金が高く、G1レースが開催される競馬場です。ここを拠点とする厩舎の経費は、預託料、装蹄、サプリ等を入れると、毎月7000豪ドルから8000豪ドル程(約70-80万円)になります。
プロヴィンシャル競馬場
上記が東京競馬場であれば、プロヴィンシャルは南関東といったところでしょうか。市内中心部より、少し離れたところにある競馬場で、賞金はメトロポリタンより低くなります。
カントリー競馬場
地方競馬のような感じで、年に1回しか開催のない競馬場から、門別競馬場のように生産地の近くにあり常に開催があり、準重賞レースが開催される競馬場もあります。賞金は3段階の中で一番低いものとなります。
厩舎のある競馬場に関係なく、どこの競馬場にでも馬を出走させることが出来るので、カントリーの厩舎からメトロポリタンの競馬場開催のレースに出走させることも可能です。カントリーでの調教費は割安になりますが、その反面、強い馬や良い騎乗者は賞金の高い競馬場に移ることが多く、結果的に併せで調教をする馬の能力や、騎乗者に限りが生じる場合もあります。また、調教施設の選択が少なかったり、出走させる競馬場までの移動費が高額になるということもあります。
坂路がある競馬場や育成場もあり、調教師によってはそのような施設を利用する厩舎もあります。調教師は管理頭数の制限がなく、馬主もご自分で調教師を選ぶことができます。厩舎からはイーメールでリポートが届くので、翻訳ソフトを利用すれば、英語が苦手な方でも理解が出来ると思います。日本人の調教師や日本人スタッフのいる厩舎を選ぶと、連絡事項も容易になるでしょう。最近では、大手調教師は週に1度は動画でのリポートを送ってくるようになりましたので、愛馬の成長具合がより身近に感じられるようになりました。調教師によるSNSの投稿では競馬の楽しさや感動が伝わってきます。
5.生産事情
オーストラリアの種付けは9月1日から始まり、馬の年齢は8月1日で1歳加算されます。
*2023年に生まれた頭数は12,362頭
*種付け料10万ドル以上の種牡馬は2025年7月の時点で7頭
*最高価格はウートンバセットの38万5000豪ドル(約3850万円)
主な生産地はニューサウスウエールズ州、ヴィクトリア州、クイーンズランド州で、総生産頭数の80%以上が生産されています。種牡馬は2023年のシーズンで501頭、そのうち海外からのシャトルスタリオンは21頭。最近では、北半球で活躍するフランケルやガンランナーなどの有名種牡馬を南半球向けに種付けをし、妊娠した繁殖牝馬をオーストラリアに輸入する生産者や投資家も良く見かけます。南半球という立地条件を利用し、世界中からスピードを追求した血統が集められてきています。
6.せり市場と転売
*南半球の厳選された馬が集まるイースターセールは平均45万豪ドル(約4500万円)
*元チャンピオン牝馬ウィンクスのピエロ産駒牝は1000万豪ドル(約10億円)
ほどんどの生産者は1番良い馬を1歳馬セールに出してきます。イングリスのブラッドストックチームは、年に少なくとも数回は全ての生産牧場を訪れ、生産された馬を下見します。そして、成長具合、血統、予想価格を考慮し、各馬がどのセールに向いているかを生産者と話し合います。南半球で最も良血で優れた馬体の1歳馬が集まるのは、シドニーで開催されるイースターセールです。2024年のイースターセールでは元チャンピオン牝馬ウィンクスのピエロ産駒牝が1000万豪ドル(約10億円)で落札されています。2026年にはこの半妹が登場することが既に発表されました。イースターセールに選ばれなかった馬は、メルボルンで開催されるプレミアセールや、シドニー開催のクラッシックセールなどの他のセレクトセールに登録されます。イングリスのセレクトセールに出てくる馬達は、殆どが生まれてから3度は下見がされている馬です。そのため、馬の選択や予算が組みやすいという利点があります。
セリで人気を集め高額になる1歳馬は、2歳のG1戦で活躍できそうな牡馬で、そのような馬をターゲットに絞り、将来の種牡馬用としてシンジケートを組んで購買するグループもあります。それは、もしその馬が1年後の2歳馬G1レースで優勝すれば、数十億円という高額で転売できるためです。
転売
オーストラリアでは、重賞を勝った馬でも競走馬として転売をしたり、引退後に種牡馬や繁殖として転売をすることが、頻繁に行われています。種牡馬目的の牡馬に支払われる額は、オーストラリアが世界一高いとされていて、特に2歳馬のG1ゴールデンスリッパーS(1200m)の前には、優勝の可能性の高い牡馬に高額のオファーが入り、レースの前に取引が完了することもあります。1歳馬のセールで購買した馬が、1年後にこのG1レースで優勝すれば、2000万ドル(約20億円)という価値が付くのです。牝馬も、血統が良く重賞馬であれば、繁殖セールにて100万ドル以上の値をつけて転売が可能です。セレクトされた競馬上りの牝馬や繁殖牝馬はチェアマンズセール、もしくはオンラインセールで特別開催があったり、オーストラリアンブルードメアセールのセレクト日に登場します。
日本のサラブレッドオークションのように、イングリスデジタルのオンラインセールも人気があり、現役馬や繁殖馬が多く取引されています。
殆どの共有馬やクラブの馬の転売の場合、手数料を差し引いた後の所有分が手元に入るのも、オーストラリアならでは。例えば5%所有している馬を1000万円で転売することになった場合、販売時の手数料を引いた額の5%が払い戻されるのです。
7.オーストラリアで購買した馬を日本へ持って行く場合
南半球馬を日本で走らせる場合、負担重量の減量が適用されますが、現行の負担重量の軽減量は南半球産2歳馬が7月から12月末までに2200m未満を走る際は3kg、それ以降距離が1000m-1600m以下の場合は翌年の3歳の9月末までが2kg、距離が1601m-2200m未満の場合は3歳の12月末まで2㎏、2歳馬が2200m以上走る場合は2歳の12月末まで4kgが適用されることになっています(JRA資料による)。詳しい負担重量についてはJRAのサイトをご参照くださいませ。https://jra.jp/keiba/rules/weight.html
日本にて出走する南半球馬はそれほど多くはありませんが、8,9月生まれの馬や、早熟なタイプを選べば、2歳になったばかりの馬でも日本で勝ち鞍を上げています。
地方競馬でデビューして、JRAに移厩する馬もいます。
北半球のチャンピオン種牡馬、例えばフランケルや、ガンランナーの南半球産馬は、オーストラリアのセリで北半球の価格よりも低価格で購入できることが多いため、その点をねらって購買される方も少なくはありません。
8.馬主になるには
*犯罪歴がない
*英語が出来なくても大丈夫
*支払いは海外送金とクレジットカードで
*一頭持ち、一口、共有馬主
*日本のクラブとは違うところ
オーストラリアでは馬主になるための財政上の制約が全くなく、犯罪歴がなければ誰でも馬主になることが可能です。個人所有の他に、数名で1頭を所有することもでき、登録には最高20名までの個人名が登記可能です。日本で言う、一口馬主を御希望であれば、シンジケートで販売されている一口を購買することが出来ます。
馬主としての申請は不要で、購入した馬の登録をする際に、その馬の主としての登録をすることで、馬主となることが認められることになります。
クラブ、シンジケート
オーストラリアでは調教師がセリで購買した馬の一口馬主を募集することがあります。また、日本の共有馬主クラブのように、シンジケートとして、馬の一口を販売している会社もあります。5%の所有でも、レーシングプログラムには最高20名までの個人名が登記されますので、馬主として名前が記載になる可能性もあります。口取りも、友人や家族などを含めた大人数での撮影も可能です。
生産大国で、賞金増額が毎年のように続くオーストラリア。引退競走馬に対する取り組みも年々向上を続けています。競馬、生産、そして馬の文化とスポーツと、オーストラリアの馬産業は増々発展を続けていくことでしょう。
オーストラリアで馬を購買されたい方、馬主になりたい方、お気軽にお問い合わせください。
オーストラリア競馬の概要、競馬場、競馬のルール等、以下もご参照ください。
オーストラリアで活躍中の日本人調教師
島良友師 https://www.yshimaracing.com/ja
中條大輝師 https://japanoz.com.au/ja/
西谷泰宏師 facebook.com/YassyNishitani/
太田陽子師